国際NGOプラン・インターナショナルの道山恵美さん。プログラム部に所属し、プロジェクトの案件形成やモニタリングなどを担当する。
世界各地の難民キャンプでは、夜間に共同トイレを利用した女性が襲われる事件がたびたび発生している。南スーダンからの難民を受け入れているスーダンのある難民キャンプでは、633人で1つのトイレを共有しており、「トイレは1日2回で我慢する」「夕方以降はトイレに行くのが怖いから、水が飲めない」といった訴えが相次いでいた。この状況を改善すべく2019年からプロジェクトを立ち上げ、500基ものトイレを難民キャンプに整備したのが、国際NGOプラン・インターナショナルだ。プロジェクトに携わった道山恵美さんに話を聞いた。
道山 恵美(みちやま・めぐみ)
大学卒業後、商工会議所、商業高校での勤務の後、2003年からNGO勤務。以後一貫してNGO、市民社会の立場から国際協力に関わる。ケニア、ウガンダ、タンザニア、ジンバブエおよびスーダンで地域開発や人道支援に従事、うち3年はケニアに駐在。複数のNGO勤務を経て2013年より現職。現在は主にスーダンでの南スーダン難民支援活動を担当。
「地域の意識を変える」支援に共感して
途上国では昔からの偏見により女性が劣った存在とされ、生理中は日常の活動から排除されるなど、活躍の場が制限されることが多い。世界70か国以上で活動する国際NGO プラン・インターナショナル(以下プラン)が重視するのは、こうした現地での認識を変えること。女性が発言権や決定権を持てるよう、女の子や女性のエンパワーメントにつながるサポートを行っていると道山さんは語る。
「現地の女の子の安全のためには、最終的には海外からの支援よりも、その地域の人々がどう関わるかが鍵になると考えています。子どもたちが暮らす環境、コミュニティの意識をどう変えるか。そこを大切にするプランの活動に共感して、2013年に入局しました」(道山さん)
2018年、スーダン。難民キャンプでの活動準備に向かう道中にて。
©️プラン・インターナショナル
道山さんが途上国支援という仕事に出合ったのは、商業高校に勤務をしていた20代。アジアの女性問題に取り組むチャリティショップでボランティアをしていたときに、海外で活動するNGOのことを知り、「自分もそちら側に行きたい」と思うようになったという。
「そんなとき、ある団体がケニアで働くインターンの募集をしているのを見つけたんです。すぐに応募し、6か月間派遣されました。現地の生活でよく覚えているのは、毎朝靴を履く前に、中にサソリが隠れていないか『サソリチェック』をしていたこと。若さゆえか、大変だとか嫌だとかいう気持ちは微塵もなく、とにかく夢中で過ごした6か月でした。また、インターンを通じてNGOの仕事の基礎を学ばせてもらい、その学びは今も生きています」(道山さん)
その後も縁あって、複数の組織で東アフリカ地域の支援に携わることに。
「支援活動では対価を払うとはいえ、食事はもちろん体を洗う水も、現地の人の助けなしでは得られません。彼らから見れば私なんて、日本から来たわけのわからない女の子。それを文句も言わずに受け入れて、仕事をする機会まで与えてくれた。すごい包容力を感じました。
あのとき一緒に仕事をさせてもらった東アフリカ地域の支援に、今も関われるのはありがたいこと。御恩返しはできないまでも、何かサポートできたらという思いがあります」(道山さん)
トイレの整備も生理用品の配布も、尊厳の維持には欠かせない
2018年、ウガンダの難民居住区にて。支援活動を行うスタッフとともに。
©️プラン・インターナショナル
現在はプランのプログラム部に所属し、プロジェクトの案件形成や、モニタリングなどを担当している道山さん。コロナ禍の前は2~3か月現地に出張し、難民支援の最前線で働く現地スタッフの「裏方」として活動を支えてきた。
「2014年からウガンダにおける南スーダン難民支援活動が始まり、女性への生理用品キットの配布などを担当しました。生理用品が手に入らず、古布や新聞紙などの古紙で代用する女性が多かったのです。中には小枝と乾燥した葉で作った簡易タンポンでしのぐという人も……。これでは雑菌が繁殖し、感染症につながってしまいます」(道山さん)
使い捨ての生理用品を毎月配布するのは非現実的と判断し、プランを含む現場で活動する支援団体で話し合い、布製ナプキンを配布することに決めた。さらに女性たちの要望にこたえ、ナプキンを洗うための石けんやバケツ、経血が漏れたときに腰に巻く「キテンゲ」と呼ばれる布もキットに追加した。
女性たちに配布した生理用品のキット。布製ナプキンのほか、ナプキンを洗うための石けんやバケツ、経血が漏れたときに腰に巻く布も。
©️プラン・インターナショナル
「生理用品を届けることも、難民キャンプにトイレを増やすことも、水や食料の配布と同じくらい重要です。個人の衛生状態を維持し、非常時であっても心の落ち着きと尊厳を取り戻すためには、どちらも決して欠かせない支援です」(道山さん)
キットを受け取り、安心した顔で家に帰っていった女性たち。その表情を見て、生理用品の配布はぜいたくな活動でも、後回しにしていい活動でもないと実感したと道山さんは振り返る。
「自分たちは元気だから助ける側だ」と話す子どもたち
南スーダンの長引く紛争により、難民となった人は224万人に上る(2021年4月時点)。そのうち約91万人がウガンダに、約77万人がスーダンに逃れた。長く続く難民居住区での生活は大人たちにも心理的・精神的な疲弊をもたらし、子どもたちが親や養育者からの虐待や養育放棄を受ける可能性が高くなるという。
「2013年12月の最初の紛争の際には、15万人の難民が短期間でウガンダに流れ込み、ウガンダでは難民キャンプの環境整備が全く追いつかない状態でした。私たちも5~6人のスタッフで家を一軒借りて事務所にして、みんなで寝泊まりして。本当に何もない状態からの始まりでしたが、ケースワーカーをはじめとする現地のスタッフの成長によって、難しい状況にある女の子たちを少しずつサポートできるようになってきました」(道山さん)
キャンプに設置した「子どもひろば」では、遊びや学習を取り入れながら、子どもたちのストレスの軽減や自尊心の育成に取り組んでいる。あるときボランティアをしているスタッフが、ひとりの女の子の様子がおかしいことに気づいた。親を亡くして里親と暮らしているが、家事を一手に担っていて、学校に行くのもままならないほど疲弊していたのだった。
この話を聞き出したのは、ボランティアから担当を引き継ぎ、里親の家を何度も訪問していたケースワーカー。地道な活動により少女の信頼を勝ち得ていたからこそ、事実を打ち明けてもらうことができたのだった。その後もスタッフは3日に1度の面会を重ね、 里親との関係を築き、少女が他の子どもたちと同じように 安心して日常に戻れるよう、サポートを続けた。
「こうした多層的で細やかなケアを現地スタッフができるようになったことで、危機にある女の子を発見し、きちんと支援を行っていけるようになったんです。家庭の事情もあるので、介入のプロセスは本当に『ちょっとずつ』しか進められないのですが……」(道山さん)
2017年、ジンバブエ。学校建設支援に関する話し合い。
©️プラン・インターナショナル
プランの方針として、いま注力しているのが思春期の女の子たちの支援だという道山さん。思春期になると親に反抗したり、大人の言うことを聞きたくなくなったりするのは万国共通。その結果、子ども向けの支援も、大人向けの支援もマッチしにくくなり、支援の手からこぼれ落ちやすいという。
「でも、その年代の子たちに話を聞くと、『守られるべきは高齢者や、もっと小さな子どもたち。自分たちは元気で強いから、助ける側だ』と言うんです。そんな彼女らを偉いと思う反面、大人とうまく人間関係を作れない時期に、災害や紛争といった被害に巻き込まれたときに問題が起きて、誰にも相談できなかったらどうなるのか、と胸が痛みます」(道山さん)
ケースワーカーによる個別支援などを通して、地域の大人が自然に介入できる仕組み作りを続ける道山さん。最後に、活動を通して実現したい未来は?という問いに、「ひとりでも多くの女の子が、『自分の可能性を活かせる人生』を歩むこと」と言葉に力をこめた。
プラン・インターナショナルのホームページでは、プロジェクトの活動報告や現地での様子を捉えた動画を紹介している。海の向こうの課題、と片付けずに、わたしたちができることは何なのか、いま一度考えてみたい。
撮影/池田理紗(1、5、7枚目)、取材・文/田邉愛理
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女の子が「自分の可能性を活かせる人生」を歩むきっかけを作りたい/国際NGOプラン・インターナショナル道山恵美さん - MASHING UP
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