学校の外にも青春はある!
イギリスの作家でフェミニストであるキャトリン・モランの半自伝的小説“How to Build a Girl”(2014)を映画化した『ビルド・ア・ガール』は、1993年、イギリスのウェストミッドランズ地方にあるウルヴァーハンプトンが舞台である。ヒロインのジョアンナ・モリガン(ビーニー・フェルドスタイン)はアイルランド系ワーキングクラスの家庭の娘だ。16歳で文学が大好きなジョアンナは容姿もあまりパッとせず、学校では変わり者扱いであまり周りに馴染めていない。 こういう始まり方のアメリカ映画だと、だいたいお話は学校と家庭で完結する。ヒロインはなんだかんだいろいろあって、素晴らしい友達のおかげで自分をいじめる連中をぎゃふんと言わせ、たぶん素敵な恋人もできる。最後は奨学金をもらって大学に行くかもしれない。 しかしながらこの映画はイギリスの、しかもウルヴァーハンプトンが舞台だ。1990年代末以降、シェフィールドが舞台の『フル・モンティ』(1997年)やダラムが舞台の『リトル・ダンサー』(2000年)など、不景気にあえぐ地方都市が舞台のイギリス映画がいくつも作られたが、ウルヴァーハンプトンはとくに衰退している地方都市の代表例としてよくあげられる。失業率も高く、ジョアンナの両親は定職についていない。モラン自身は故郷のネガティヴなイメージに対抗しようとしており、著作ではいつもウルヴァーハンプトンの人々を生き生きと描いているが、それでもチャンスがたくさんある地域とは言い難い 。 モリガン一家はジョアンナが良かれと思ってしたことがきっかけで無収入になってしまう。そこでジョアンナが選ぶ道は、学校で一生懸命勉強して大学に行くのではなく、家族を支えるために働くことだ。1993年といえばブリットポップの盛り上がりが始まった時期で、音楽メディアはセンスのあるライターを必要としていた。 ロック好きの兄クリッシーに教えられ、ジョアンナは知識も無いのにロック雑誌『D&ME』のライターに応募し、一度は断られるが、文才と度胸だけでマニック・ストリート・プリーチャーズの取材をとりつける。マニックスのライヴを初めて見に行ったジョアンナは、目をキラキラさせて‘You Love Us’に聞き入り、すっかりロックに夢中になって、ライターとして活躍し始めるようになる。 たった16歳の女の子にそんなことできるわけがない……と思うかもしれないが、これは著者キャトリン・モランの経歴にほぼ基づいている。筆者が翻訳したモランの著書『女になる方法 ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記』(青土社、2018)にも記されているが、モラン本人が十代の時から音楽メディアでライターとして活躍していた。さすがにこれは大変珍しい経歴だが、モランからもジョアンナからも、若い頃から働き始めるイギリスのワーキングクラスの人々の自立心が垣間見える。
センスのいい女の子がロックに夢中だった最後の時代──映画『ビルド・ア・ガール』(GQ JAPAN) - Yahoo!ニュース
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