企業が商品やサービスを絶えず市場に送り出すときに欠かせないのが、「今、何がはやっているか」をつかむ力だ。特に若い女の子向け商品の市場はトレンドの変化が非常に激しい。この若年女性の流行をつかむ力がつけば、他のユーザーたちの流行をつかむのも簡単になるはずだ。一体、流行とは何なのか。どう始まり、どう終わるのか。プリントシール機で大ヒットを連発してきた、フリュー「ガールズトレンド研究所」所長の稲垣涼子氏が3回にわたって解説する。
※本連載は新刊『カワイイエコノミー』より、「流行」についての項目を一部抜粋、編集したものです
2010年代前半までは流行をつかむ作業は、今に比べると難しくありませんでした。
それは、女の子たちの好みが今ほど多様ではなかったからです。ギャルがはやればギャルの要素をみんなが取り入れましたし、読者モデル(読モ)ブームが到来すれば、みんな読モをまねしました。そして、清楚(せいそ)系がはやればみんな清楚系に流れました。
しかし、今は以前ほど、ずば抜けて支持される人気のものはありません。
一昔前は「好きなモデルさんは誰ですか」と女の子に聞くと、答えは一極集中していました。くみっきーこと舟山久美子さん、益若つばささんと、分かりやすい結果が出ていました。もちろん、今も女の子に人気のモデルさんはいます。ですが最近は、私たちも好きな「モデル」だけを聞く調査はしなくなりました。憧れたり応援したりする対象が広くなってきたからです。
これは、もちろん今の芸能人が昔より魅力が劣っているということではありません。SNSが若者のインフラになったことで、人を引きつける魅力的な人があちこちでコミュニティーをつくることができるようになり、ファンが1カ所に集中せず、分散している結果です。SNSが登場したことで、かつてはマイナーとされた趣味も女の子たちは心から楽しめるようになりました。
特にインスタグラムが普及したことで、「自分の好き」の画像を軸にコミュニティーが形成されて、流行の一極集中が消滅しました。アイドルが好きな人もいれば、俳優が好きな人もいる。ユーチューバーが好きな人も、モデルやタレントが好きな人もいて、さらにはその中での「推し」も人それぞれです。それは、ここ5年くらいの新しい大きな変化です。
1つに集中していたピラミッド型のヒエラルキーがフラットに変わってきています。何かが一番すごいのではなく、「全部いいね」の時代になっています。お互い好きなものが違っていても、多様化を認め合うのがスタンダードになりつつあります。
世の中ではダイバーシティー(多様性)が話題ですが、女の子かいわいではSNSを通じて一足先にその考え方が当たり前になっている印象です。今は「韓国っぽ(韓国風)」や「量産型」もいれば、清楚系もアイドル系もオタク系もいます。本当に女の子の世界は多様化しています。
ちなみに、量産型とは「大量生産型」から来ており、周囲から浮かないように、流行の格好をする人のことで、淡い色の服を多く着ています。グループインタビューでは「私は量産型で」という言葉をよく聞きます。
多様性を象徴しているのがテレビCMです。出演者の多人数化が進んでいます。それも著名な俳優や芸人などを組み合わせて、幅広い層にアピールできるようなメンバーをそろえています。特に若者を入り口で取り込みたい携帯キャリアはどこもこの形で、それも長年にわたって継続しています。また、アイドルも、1人ではなく多人数が人気です。多くメンバーがいることで、その中から「推し」と呼ばれる好きなメンバーを探し、応援することが当たり前の文化になっています。
ですから、「今、大きな流行って何ですか」という質問が最も困ります。「大きな流行」が見当たらないからです。強いて挙げるとするならSNS、とりわけInstagramだといえます。
なぜタピオカがはやったのか
例えば、2019年に大流行したタピオカにしても、その前にはやったホットクにしても「何で流行したのか」を突き詰めていくと、「インスタ映え」に行き着きます。タピオカが大ブームになりましたが、女の子たちはタピオカを飲みたいだけではありませんでした。「タピオカ飲んでる写真はめちゃ盛れる、タピオカ最高」がはやった理由です。
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「おじさんの参加」が合図? タピオカに見るブーム終焉の兆候 - 日経クロストレンド
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