ウクライナ北東部の街スミが、連日ロシア軍の激しい攻撃にさらされ、多くの住民が逃げ場を失っている。爆撃が続く中、エジプト人マフムード・サーベルさん(32)は3日、ウクライナ人の妻リナさん(30)との間に第1子女児ダリーンちゃんを授かった。待ちわびた誕生だったが、「素直に喜べない」と複雑な思いを本紙に語った。(カイロ支局・蜘手美鶴)
サーベルさんは2月初旬、出産に備えて帰省していたリナさんの元に駆けつけた。2人にとって初めての子で、女の子だと聞いていた。ロシア軍侵攻の話が取り沙汰されていたが、「欧米が止めてくれるだろう」とどこか楽観視していた。
◆どこにも逃げ場はない
2月24日。国境から約30キロのスミにロシア軍戦車が乗り入れ、攻撃が始まった。臨月のリナさんと一緒に建物の地下に逃げ、ごう音が響く中、身を固くして抱き合った。スミには第2次世界大戦中に建てられた古い建物が多く残り、2人の隠れた建物もその一つ。緊張と恐怖、零下の寒さでリナさんは体調を崩し、病院に運ばれた。
サーベルさんによると、スミではロシア兵が建物に反射材を貼り付けて回り、そこを狙って戦闘機が爆撃を繰り返しているという。数日前、サーベルさんの目の前でも建物が1棟崩れ去り、地下に隠れていた人も含めて全員が死亡した。それを見て、「逃げる場所はない」と悟ったという。
当初は多くの住民が街からの脱出を試みたが、爆撃で線路が壊され鉄道は止まり、昼夜問わず砲撃が続くため外に出られない。サーベルさんの友人夫婦は夜中にロシア国境を越えようとしたが、ウクライナ兵に誤射されて妻が死亡した。行き場を失った多くが、今も建物内に身を潜めている。
ダリーンちゃんは3日夕、停電中の病院で産声を上げた。「ウクライナで出産した方が安全だと思って妻を送り出したのに。この子を連れてどこに逃げればいい?」。そう語るサーベルさんの声に、喜びは感じられなかった。
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