ある政治家が二歳の女の子と会った。その子には「品性」と「驚くほどの威厳、思慮深さ」が備わっていると語ったそうである。政治家はその後、英首相となるチャーチル。女の子は幼き日のエリザベス女王である▼エリザベス女王が亡くなった。九十六歳。二歳児に品性、威厳とは少々持ち上げすぎではと思わぬでもないが、やはりチャーチルの見立ては確かだったのだろう。在位は歴代最長の七十年。「生涯をかけて国民に奉仕する」。即位での誓いの通りに、その務めを果たし終えた▼女王になって間もないころか。昼食で二杯目のワインを飲もうとした女王を母君が叱ったそうだ。「控えた方がいいわ。あなたは午後も統治しなければならないの」。二十四時間、「私」のない生活。想像できぬ重圧もあっただろう▼在位中は必ずしも英国が光り輝いた時代ではない。冷戦や独立運動、紛争。その時代にあって女王という落ち着き、変わらぬ存在が揺れ動く英国を精神面で支えてきたといえる▼あの二歳児についてチャーチルが見落とした才能は親しみやすさとユーモアか。ロンドン五輪の開会式の映像におなじみの諜報(ちょうほう)員ジェームズ・ボンドと登場した場面を思い出す。国民の懐に入り、国民とともにありたいと考えた女王だった▼今、王位をチャールズ新国王に譲った。おそらく、二杯目のワインを楽しんでいらっしゃる。
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