「女性は難しいな」「男の人って何を考えているか分からない」
「性別で人をくくるのは良くない」と頭では理解していても、ついこう感じてしまった経験を持つ人は多いだろう。相手を「1人のひと」として見ることを、少し諦めてしまう瞬間だ。
「どんな人であっても、一人ひとり異なる楽しさや苦しさを抱えて生きていることを、多くの人が知るきっかけを作りたい」そんな想いのもと、2023年11月上旬、東京・渋谷駅構内で、13人の実体験を元にした短編小説を販売したのが、学生団体の「ひと(と)」だ。
「みんながもっと、ひとへの関心をもてる社会を」を目的に活動する、ひと(と)。今回は20~30代の「女の子」13人に、「ああ、自分は『女の子』なんだ」と感じる瞬間についてインタビューし、それを元に小説を作成。13種類の小説が買える自動販売機を、3日間限定で渋谷駅に設置した。
イベント名は「ワンデーガール(ズ)」。なお、ここでの「女の子」「ガール」といった表現には、性自認は女性ではないが、社会からは女性として扱われることが多い人も含んでいるという。
見知らぬ誰かの日常を想像することで、皆が協力し合える社会を目指すひと(と)。同団体の安本羽奈氏、古旗笑佳氏、岩間弘晃氏に、ワンデーガール(ズ)への想いや、団体の考えなどを聞いた。
「女の子」を小説のテーマにした理由
ひと(と)は、安本氏と古旗氏が立ち上げた団体だ。団体に途中から加わったという岩間氏に、ワンデーガール(ズ)への想いを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「まず、『小説が買える自動販売機』というアイデア自体が新しい試みだと思います。小説を通して、自分が経験し得ないことを知れます。
たとえば僕は、普段『女子会』という場所で、いろいろ面白いことや深いことが話されているように感じます。僕はなかなか女子会などにアクセスすることはできませんが、もし誰かがこそっと、どんな話がされていたか教えてくれたら素敵だと思います。そうしたらもっと、自分の身の回りにいる大切な人たちを理解してあげられるかもしれない。
小説を自動販売機で売ることは、いろんな方がアクセスしやすいという点で、良い方法なのではないかと感じています」
「他者のことをもっと知りたいが、他者との距離感が難しい」と思うことは、同じ社会的アイデンティティを持つ者同士でもある。20代の安本氏と古旗氏に、人が歳を重ねることや老いについて想うことを聞いてみると、他者を想像する難しさについて、じっくり考えながら答えてくれた。
「女性が40~50代になったときや、おばあさんになったときも、きっとさまざまな幸せや生きづらさがあると思います。正直、私たちが体験していないことですし、想像する難しさがあります。
今回、インタビューする相手を20~30代の人に絞ったのも、私たちと年齢が近い人のほうが、私たちに心の深い部分を明かしやすいのではないかと思ったからです。ひと(と)は始まったばかりの団体で、最初は『女の子』をテーマにしたいと思いました。
ただ、ひと(と)は、『女の子』に限らずあらゆる人を対象とする団体ですし、今回とは違うテーマを扱う企画にも挑戦していきたいです。SNSで、『ワンデーガール(ズ)の男性版もやってほしい』という声をいただいたこともありますし、私たちにできることを模索しようと思っています」
13人の「女の子」のリアルな心情を描いた小説、読んでみた
筆者は、13人分ある小説のうち2人分を読んだ。1冊は、第一子を出産し、自分と夫の子育てへの向き合い方について考える「女の子」の話。もう1冊は、ボーイフレンドとの関係性について考える「女の子」の話だ。立場の異なる「女の子」たちの、心の声が伝わってくる。
私だって子育て初めてなんだから知らないよ!調べてよ!って声が出そうになる。
きっと私にとってのパートナーは、世間一般にとっての彼氏とは違うんだと思う。
「小説に書かれていることを感じているのは、私の身近な人かもしれない」そう気づくところから、私たちは、少しずつ自分の振る舞いを変えていけるのではないだろうか。
小説を、“他者”の考えを知るきっかけに
ひと(と)に、自動販売機で小説を販売するという方法を選んだ理由を聞いた。
「みなさんが物語を読み終わった後も、部屋に長く置いてほしいと思い、紙媒体の小説というかたちを選びました。時間が経って、部屋の掃除をしたときなどに、また見つけて読み返してもらえると嬉しいです。
また、『これが私たちが楽しくやれる方法だから』というのも、大事な理由です。こうやって場所を借りて、自動販売機などを設置して、大変なこともありますが、自分たちの手で作り上げている充実感があります。ジェンダーについてあまり考えたことがない人にも、小説が届くと良いなと思いながらやっています」
筆者はワンデーガール(ズ)を取材して、「他者の心の深い部分を知り、広め、皆がもっと協力し合う社会をつくるために、どういう方法を取り得るだろう」と考えた。誰もが表立って口にしにくい事情や感情を抱えて生きるなか、私たち一人ひとりのリアルを広く伝えるには、どうすれば良いだろうか。
インターネット上で記事を公開する人もいれば、ひと(と)のように駅で小説を販売する人もいる。他にも、多くの人がさまざまな方法を試しているだろうし、これから新しい方法がたくさん生まれるかもしれない。
心の深い部分を安心して伝えられる場が増えたら、私たちは、今感じている窮屈さから少し抜け出せるのではないだろうか。
【参照サイト】女の子の日常にあふれる生きづらさを小説を通して伝えたい。 – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
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