みなさんは「女のさしすせそ」という言葉をご存じだろうか。調味料の種類を指す「料理のさしすせそ」ではない。「(さ)さすが」「(し)知らなかった」「(す)すごい」「(せ)センスよい」「(そ)そうなんだ」である。それぞれの頭文字をつなげたこの言葉は、女性が発することで男性を喜ばせるという「モテテク」の一環として認識されている。
この「女のさしすせそ」が昨年話題になった。理由は女児向けの書籍『おしゃカワ!ビューティー大じてん』(2018年出版)で「モテ女子へのステップ」として「キュートな会話テクニック♥」コーナーに登場したからである。「男の子はホメられるのが好き!」だから「さしすせそ」を使って会話しよう、と指南するのである。
この言葉は、発する側と受け取る側が女性から男性へと固定化されている。このような発想は、「ケア労働」を女性から受け取ることを期待する男性中心的な社会から生み出される。それを女児にまで仕向けると思われる。
だが、こうした心性が特定の書籍にしかないとはいえない。たとえば義務教育の教科書のイラストを見てみよう。「上目遣い」「首をかしげる」などのしぐさが、女児の動作として表現される傾向がある。これは前掲書では「これでカンペキ!モテしぐさ12連発♥」として紹介されている。
教科書でさえステレオタイプ化された女の子のイメージが氾濫している。教科書の作り手側にジェンダーに基づいた無意識の偏見がある限り、そうした心性は再生産されて子どもたちに植えつけられ、男女双方がそれを当然のものとして内面化していくだろう。
中学1年生の私の娘は、「さしすせそ」のページを読んで「知っているのに知らないふりをしなければならないのは意味がわからない。そんなことはしたくない」と言っていた。「さしすせそ」のなかでも「知らなかった」は、自分をわざわざ下げることで、相手を持ち上げる方法だ。女の子の自己肯定感を下げてまで追求しなければならない「モテテク」はいらない。
きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者
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