
バービー人形の実写版映画「バービー」の全世界興行収入が、10億ドル(約1460億円)を突破しました。同時公開の原爆開発者を描いた映画「オッペンハイマー」と対比して「ポップな映画」とも言われていますが、子ども文化とジェンダーに詳しい小田原短期大学保育学科の宮下美砂子・特任准教授は「バービー人形はかわいらしいだけではない、その時代を映すものだ」と話します。60年以上前に誕生したバービー人形には、どんな社会が投影されてきたのでしょうか。
――バービー人形はどんな経緯で生まれましたか。
1959年に米国の玩具メーカーのマテル社が作りました。創業者の一人が、紙人形遊びに夢中だった娘を見て、立体型の人形を発案したのが始まりと言われています。
それまで、人形と言えば、赤ちゃんや子どもの姿のものを世話して遊ぶ「おままごと」用が定番でした。バービーは成熟した身体を持つ女性で、最先端のモードを着こなす画期的なファッションドール。親世代からは教育上良くないという批判もありましたが、子どもたちからは絶大な人気で生産が追いつかなくなるほどでした。
――1980年代にかけて、様々な職業のキャリア女性版バービーが登場しています。宇宙飛行士や外科医に、金メダリスト……。どんな背景があったのでしょうか。
この頃、米国社会では、男女差別をなくそうという動きが強まりました。例えば1981年、女性へのあらゆる差別をなくすために国連総会で採択された女性差別撤廃条約が発効しました。一方で、バービー人形に対しては、女性の価値は若さと美しさだけにあるという考え方を、子どもたちに植え付けているのではとの批判がありました。こうした事情を背景に、色々な職業のキャリア女性版のバービーが現れたのでしょう。
80年代には、アフリカ系のバービー人形も登場します。多民族国家の米国で、白人の美の基準だけを掲げた人形を売り続けることには、限界があったのではないでしょうか。
――最近はどんなバービー人形が発売されていますか。
2016年には「トール(高身長)」、「カービー(ふくよか)」、「プチ(小柄)」の3タイプが新たに発売されました。これまで、8頭身でスレンダーという非現実的な姿を女の子がめざし、摂食障害になるリスクが高まるという指摘もありました。より多様性を重視し、唯一無二の美の基準を見直そうという意識の変化が見えます。車いすに乗ったり、義足を着脱できたりするバービーや、ダウン症のバービーも作られました。自分を投影することができるようなバービーが生まれてきたのです。
バービー人形のモットーは、「You Can Be Anything(何にだってなれる)」です。商業的な要素もありそうですが、性別を理由に、夢を諦めることはないのだというエールを受け取る女の子も実際にいると思います。
また、19年には同じマテル社から、バービーとは別に、性別にとらわれないジェンダーフリーの人形が発表されました。顔や髪形が中性的で、ウィッグ(かつら)や服装を自由に選べます。あらゆる性のあり方を肯定する、これまでには例のない新しいメッセージを発信しています。
時代とともに変化してきたバービー人形。記事の後半では、こうした人形から見えてくる社会の実像を紐解きます。
リカちゃん人形とバービー人形を比べると…
――中東の一部の国では、バービーの実写版映画の公開を中止する動きもあります。この事態をどう見ますか。
イスラム圏での公開は難しいと思います。映画はコミカルですが、男性中心社会へのアンチテーゼです。ファッションも露出が多く、受け入れがたいでしょう。ただ、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などでは公開されてブームとなったようで、変化の兆しも見られます。
一方で、日本のSNSを見ていると、フェミニズム的な内容に驚きや戸惑いを感じたという投稿が目につきます。バービーが単なる「可愛い着せ替え人形」と認識されており、また、そう認識し続けていたい願望もあるのだと感じます。
――日本のファッションドールといえば、リカちゃん人形です。バービーと比べて特徴はありますか。
とても保守的に見えます。リ…
女の子は何にだってなれる? バービー人形から見える社会の姿とは:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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